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『スポーツ随想』第4回










NZのシーカヤックツアー ――― リュウ・タカハシ

山陽新聞 夕刊 2002年 1月28日(月)号


 南半球のニュージーランド(NZ)は、いま夏真っ盛り。真夏のクリスマスや正月と聞くと、北半球人の目は好奇に輝くが、やはり年末年始は寒くないとまったく気分が出ないものだ。
 ただ、行事の季節感を抜きにすれば、NZの夏は最高だ。空はどこまでも青く、日没は遅く、炎天下でも爽やかな涼風が吹き抜けるのだからたまらない。
 もちろん絶好のアウトドア・シーズンだ。シーカヤック・ガイドのわたしも、てんてこ舞いの大忙し。大みそかも元旦も出勤した。地元の海には毎日100艇を超えるシーカヤックが漂っている。
 日本ではシーカヤックを習いにプロの門をたたく方が多く、プロの大部分は「インストラクター」だと聞くが、NZの場合は国内外の観光客が気軽なツアーを求めるため、「ガイド」の需要の方がずっと大きい。この両者は似て非なるもので、前者は「教官」、後者は「観光案内人」だ。
 わたしは後者のガイド。世界各国からのお客さまを海にお連れし、安全に楽しく観光していただくのが仕事だ。グループには子どもからお年寄り、身体に障害をお持ちの方、ベテランに初体験、いろんな人たちが混じる。一日の終わりに、皆さんが満面の笑みで手を振って去っていくのを、誇りと楽しみにしている。
 中でも、ご主人の目が不自由だった英国の老カップルや、片足が不自由なドイツの初老女性の会心の笑顔は、今でも忘れられない大切な思い出だ。
 「シーカヤックやってみたいけど、習うほどのつもりはないし」という声をよく耳にする。そういう方には「スクール」の敷居は高く感じるのかもしれない。ならばいっそのこと、NZで「ツアー」に参加してみる、というのは飛躍しすぎだろうか?
 どなたにとっても、身構える必要はないことは保証できる。ちなみにわが社の最高齢記録保持者は、なんと82歳の日本人男性。あなたもいかがですか?

(シーカヤック・ガイド)

 











書斎での独白 ――― Ryu H. Takahashi


● タイトル

 実は今回私がつけておいたタイトルは『ニュージーランドのシーカヤック「ツアー」』。 字面は変えてあるものの、ほとんどそのままのタイトルとなったのは初めてのことで、かえって困惑してしまった(^_^;  こうなると、他の新聞でどういうタイトルがついたのか、非常に気になるところ。 (今回も今のところ、山陽新聞社以外の掲載分に関しては、どういうタイトルがついたのかは、私のもとには情報が入ってきていない。) お読みになった方、掲示板でお教えいただければ、大変嬉しいです。

 《追記 (2002年12月19日)》

 いくつか掲載紙を入手したので、ご紹介しよう。

 『ツアー参加も一案』 (高知新聞 夕刊  1月11日号)
 『シーカヤックは気軽に』 (河北新聞 夕刊  1月19日号)
 『シーカヤックツアー』 (北日本新聞 夕刊  1月18日号)
 『アウトドア・シーズン シーカヤックツアーいかが』 (南日本新聞 夕刊  1月17日号)


 「ツアー参加も一案」と「シーカヤックは気軽に」って、タイトルだけ見たらどう考えても同じ内容は想像できないですよねぇ?



● トピック

 過去の掲載分は、すべて私自身あるいは妻Ryokoのアイディアによるものだった。 実は一時帰国中の2001年11月某日、共同通信社スポーツ特信部担当デスク氏のところにお邪魔したのだが、その際に「こんなの書いてみてはいかが?」と示唆していただいたのが、今回のNZ方式のツアーの紹介というトピックだった。 言ってみればこれは新聞コラムに名を借りた営業行為、宣伝活動のようなものなので、私自身ちょっと驚いたのだが、ありがたいお申し出、素直に頂戴してさっそくこういうシロモノを書き上げてしまった、というわけ。
 内容に関しては、「日本で主流の北米式スクール系アウトフィッター」に対して「NZ、特に南島で主流のエイベル・タズマン式観光ツアー系アウトフィッター」の比較を述べたもので、拙サイト読者の方にはもうすっかりおなじみのシロモノ、今さら目新しさはまったくなかっただろうと思う。
 ただ、新聞読者層というのは、拙サイト読者ともカヤック専門誌読者とも全く違って、むしろ、私が普段エイベル・タズマン国立公園でお相手している、「今まで『シーカヤックのシの字』も知らなかった」というお客さんに近い層ではないかと思う。 そういう意味で、こうした媒体でこうしたトピックを紹介できたのは、非常に良い機会を頂いたな、と思って担当デスク氏に大変感謝している。



● 字数

 人間は慣れる動物だとはよく聞くセリフだが、実際この回は字数制限にはほとんど苦しまずに済んだ。 下書きのつもりでざっと書いてみたものが、ほぼ字数ピッタリにおさまっていて、これには自分自身ホントに驚いた。 慣れとは恐ろしいものである。
 ただ、内容的に「インストラクター」を傷つけたりしないように書くのには、いささか苦しんだ。 拙サイト内コンテンツ『プロガイド論』では、ガイドとしてのトレーニングをつんでいないインストラクターがガイドの真似事をすることを批判したが、今回はインストラクター批判をすることは本旨ではないどころか、そういうことは一切匂わせたくもなかった。 批判するのではなく、違う職業であることを強調したかっただけなのだ。
 今回の苦しみどころは、結局のところここに集約されてしまったのだが、このときほど自分の「毒舌節」を呪ったことはなかった。 果たしてその成果はあったのかどうか??? いまだに自分自身ではその判断はつけようがない・・・。



● 忘れられないお客様

 『ご主人の目が不自由だった英国の老カップル』を本文中にとりあげた。 このお二方をご案内したのは、今から3年前のこと。 ご案内といっても、私がまだ見習いガイド兼通訳として、正ガイドの先輩にくっついて修行していた頃の話だから、実際にご案内したのは先輩ガイドだったのだが。
 ご主人が視力を失ったのは、もう20年も前のことだそうで、目の不自由さを感じさせないほどのコンビネーションだった。 そして、その点を除けば、アウトドア好きでユーモア溢れる穏やかな、典型的な素敵な英国人カップルだった。
 驚いたことに、シーカヤックの後部席には、ご主人が座った。 私としては、目の見える奥さんが後ろに座ってラダーを操作し、ご主人は前でひたすら漕ぐだけだと思ったのだ。 ところが実際には、目の見えないご主人が、当然のように舵を切る役目についた。 前部席に座った奥さんがナヴィゲーターになり、事細かに方向指示を出すのだ。
 しかし驚くのはまだ早かった。 本当に驚嘆させられたのは、海に出てからの奥さんの『実況』だった。
 「今岩場を漕いでるのよ、海はエメラルドグリーンでカヤックの直ぐ下に岩があるの。 今カヤックを揺らしている波は、さっき通り過ぎたウォータータクシーの引き波よ。 左の崖の木の上に海鵜のコロニーがあるの、声は聞こえるでしょ? 空は真っ青で、右手の方に小さな白い雲がポカッと浮いてるわ。」
 奥さんはひたすら、しかし優しく目に入るもの全てを描写しつづけた。 ご主人はそれを聞きながら、本当に楽しそうにゆったりとパドリングをし続けた。 もちろん、要所要所には「右、あ、OK、もうまっすぐ。あ、ちょっと切り過ぎね、少し左。」と、ナヴィゲーション指示も入る。
 その奥さんのナヴィゲーションや実況も、ご主人のパドリングストロークも、一朝一夕の付け刃ではないことが伺い知れ、本当に舌を巻いた。 奥さんの適切なナヴィゲーション、ご主人の適切なラダー操作で、カヤックは健常者の艇とまったく同じペースでまったくつかず離れずのツアーとなったのだ。 そして、そんなカップルを健常者のグループの中に交えて涼しい顔でガイディングする先輩ガイドを、心底かっこいいと思った。
 その後2,000人以上のお客様を海にご案内してきたわけだが、あのツアーはやはり今でも忘れられない。 あのカップルは、今ごろどこでどんなアウトドアを楽しんでいらっしゃるのだろうか? そして、今彼らが戻ってきてくれたら、あの時の先輩ガイドと同等以上のツアーを、私は提供できるのだろうか?








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