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雑想録

その11 挨拶







 ニュージーランドにやってきて驚いたことは数え切れないほどあるが、その一つが小さな子でも本当によく挨拶が出来るという点。
 たとえばMayが生まれて間もない頃にパーティに招かれたときのこと。幼稚園児くらいの子供がたくさんいたのだが、
 「Mayを抱っこさせてもらっても良いですか?」
と、一人一人が全員ちゃんと聞きにくるし、自主的にきちんと列を作って順番に抱っこするし、抱き終わったらまた一人ずつが
 「抱っこさせてくれてどうもありがとう」
と挨拶に来た。

 日本だとこれはちょっと考えられない。親のところに行って
 「あの赤ちゃん抱っこしたい」
とねだって叱られるか、あるいや親がこちらに頼みに来るというのが普通のパターン。
 もうちょっとマシな場合、自分で頼みに来る子がいたとしても、一人が頼みに来てOKをもらうと、その他の子は承諾なしでワッと我も我もと群がり、抱き終わった後でありがとうを言いに来る子はいないだろう。いても、せいぜい最初に頼みに来た子だけ。

 これ、子供だけではない。大人を見ていても同じ。
 毎日の僕の仕事の場でも、日本人の挨拶できないことは、イヤになるほど目につく。つくづく教育の差を感じる。
 たとえば、朝お客様と顔をあわせる瞬間、僕と欧米人は次のような会話をする

 - Hi, how're you? I'm your guide, Ryu. Nice meeting you.
 - Hi, I'm Bob, nice to meet you too."

 で、日本人のお客様と顔をあわせると、十中八九、いや百中九十八、九こういう会話だ。

 「おはようございます、ガイドのRyuです、よろしくお願いします」
 「おはようございます、よろしくお願いします」
 「えっと、お名前は?」
 「シンイチロウです」

 100人中98〜99人は、挨拶のときに名乗るという事さえ出来ないんだよなぁ。これがどんなに無礼なことか、分からないんだろうか?

 で、欧米人の場合、三々五々参加者が集まってくるたびに、すでに待っている参加者と新着の参加者は、互いに自己紹介しあってすぐに会話を始める。
 ここから先は言わずともお分かりだと思うが、日本人が自分から他の参加者に挨拶して自己紹介する光景を目にするのは、年に一度か二度である。こっちの子だったら五歳児でもちゃんと挨拶と自己紹介するというのに、日本人は「Hello」の一言も言わずに、ジッと所在なさげにたたずむばかり。欧米人の方が話しかけてくれても、「Hello」の一言だけで、やっぱり名乗らない。

 さらにグループ全員が集まって、全員で簡単な自己紹介をやるとこれまた問題でね、
 「ハロー、マイネーム・イズ・シンイチロウ・ナカバヤシ」
などと、欧米人の目が点になるような長い長い名前をご披露くださる(^^;
 相手に自分の名前を覚えてもらおうという配慮など、欠片もない。この、覚えられないような名前をペラペラと喋るのだって十分無礼なのだが、自分自身が他の参加者の名前を覚える気など皆無で、他人の自己紹介など一言も聞いていない日本人の場合は、そんなことに思いが及ぶはずもない。

 ちょっと脱線するが、僕の名前Ryuは、欧米人には読むことさえ出来ないスペリングだ。なんせ欧米の言葉には「リャ行」の音がない。だから「リ・ユー」という発音にせざるを得ないのだが、それだって一回聞いて覚えられる名前じゃない(ゲーム小僧だったら、「『ストリート・ファイター』のライユーと同じ名前だ!」って言うけど)。
 そこで、僕は、

 - My name is Ryu, R, Y, U. I know that it's an unfamiliar & strange name for you but don't call me reuse or recycle, please.

と自己紹介する。これで笑いを一発とれば、絶対に皆一回で名前を覚えてくれるから。

 話を戻すと、ツアー中に感じるのが、日本人は「ありがとう」を言わない民族だな、ということ。
 欧米人は、とにかく「Thank you」を連発する。特に食事のときなど、これから食事を作るから呼ぶまで待っててくれっていうと、そこで「Thank you」。食事が出来れば食べ始める前に「Thank you」、食事中に飲み物をすすめるとそこでも「Thank you」、食事が終われば、美味しかったといって「Thank you」。
 日本には「いただきます」「ごちそうさまでした」という美しい言葉があるのに、僕が見ている限り、この二言を発する日本人もほとんどいない。もちろん「ありがとう」なんて聞いたことがない。

 ありがとうっていうのは、本当に素敵な言葉で、これが互いに連発されている会話は本当にスムーズだし、気持ちが良い。お世辞でもいいから連発する価値のある言葉だと思う。欧米人の会話を聞いていると、つくづくこれを感じる。
 日本人は、相当に英語が出来る人でも「Thank you」を多用することは出来ない。そりゃそうだよね、母国語の日本語で喋ってても「ありがとう」を言わないんだもん。

 こういう挨拶の出来ない人がタマにいるというだけなら、僕も別に何も言わない。変なヤツ、無礼なヤツなんて、世界中どこにだっているから。
 でもねぇ、ジャパニーズの場合はこういう輩が大多数なのよ。英語が苦手だからだろうということで、こっちでは多めに見てもらえているけれども、同胞である僕の目はごまかせない。問題点は、英語力じゃない。もともと挨拶やコミュニケーション能力のきわめて低い国民性なのだ。

 昨日のお客様の中にも日本人女性が一人混じっていたが、彼女はツアー終了後、他の参加者にもガイドの僕にも一言も言わずに姿を消した。五桁にあとちょっとという数のお客様を見てきているが、「さようなら」さえ言えないのは日本人だけだ。

 まったく、この無礼ぶりは何なんだろう? 国際性を育むだのなんだの言ってるけど、半年も一年も海外に暮らしてて、「Hello, I'm Shin, nice to meet you.」のたった一言の挨拶さえ出来るようにならないのは、英語力とか国際性以前の、人間性の問題だ。人間性というのが言いすぎだとしても、挨拶のトレーニングがまったく出来ていないのは明白。
 少なくとも、僕の祖国から来る同胞には、この点で「失格」の人間が圧倒的に多い。残念なことだ。
 英語が苦手? そんなの問題にならんだろう。いくら英語が苦手でも「Hello, I'm Shin, nice to meet you.」が言えないほどの低能はめったにいない。そもそも、平均的日本人よりもはるかに英語の下手糞なヨーロッパ人だって、掃いて捨てるほどいるのだ。しかし、彼らはキチンと挨拶くらいは出来ることは言うまでもない。
 文化の違い? 挨拶をしない文化を大切にしたいのなら、海外なんかに出ないで、その文化圏内だけで暮らしてなさいって。

 ニュージーランドの五歳児と日本人成人を比べて、圧倒的にニュージーランドの五歳児の方が挨拶が上手いのを見てると、本当に情けなくなる。
 そもそも、会社に入ってから挨拶の仕方を習うっていうのがそもそも変だと思わんかぁ? 大学まで出て、22歳にもなって、挨拶の仕方を知らんっていうんだから、あきれ返る。

 で、そういう連中に限って、帰国後「僕がニュージーランドに暮らしてた頃はさぁ」とか「ニュージーランドは、ありゃダメだね、文化のない国だ」などとほざくんだろうなぁ。ヤレヤレ……。

(2004年10月 8日)





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