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今まではあまりおおっぴらに言わないようにしてたのだが、実を言ってしまえば私は日本でのカヤッキング経験は皆無だ。
パドリングはニュージーランドに来てから覚えた。
こんな事をいうと、
前者はまぁいう間でもない。 さすがに「2シーズン仕事をしている」といえば、「経験不足」と思う方もあまりいらっしゃらないだろうと思う。 日本人の大好きな経験『年数』こそ浅いのは確かだが、実質的な『経験』はたっぷり積んでいるし、そもそもカヤッキング歴の極初期からプロとしてトレーニングを受けているのだから、もういまさら経験『年数』の短さを隠す必要を感じていないのだ。 ちなみに私のアマチュア歴を書けば、海2日、川2日のわずか4日だ。 5日目のパドリングはプロとしてのトレーニングだった。 プールでの練習をあわせても、アマチュア時代にパドルを握った日数は10日程度だったと思う。 さて、大事なのは理由の後者の方。 本稿のテーマは『日本とニュージーランドのパドリング事情の違い』について。 なんだか『カヌーライフ』誌(山海堂)の斉藤完治氏の連載記事みたいで恐縮だが、私のテクニックは完全にニュージーランド仕込みであるため、日本の雑誌や書籍・インターネットの情報を読んだり、日本のパドラー諸氏と話をしていると「へぇぇ!」と思うことが少なくないのだ。 そういうもののうち、今回は『ロール』に関して感じている事を話してみようと思った次第だ。 だからここでニュージーランドでカヤッキングを覚えたことを白状してしまったのだ。 さて、こっから本題、表題の『ロールの話』だ。 もちろん、パンとかケーキとかの話じゃない。 『ロール』、または『エスキモーロール』、パドラー諸氏には説明するまでもなく、沈したカヤックから脱出することなく、乗ったまま艇を起こしてしまうテクニックの事だ。 こいつの捉え方が日本とニュージーランドではどうやらえらく違うようだ。 日本の情報をみていると、どうやらコイツは『高等テクニック』とされているらしい。 これが私には不思議で不思議でたまらないのである。 私が生まれて初めてパドルを握ったのは1998年10月初旬の火曜の夜、ネルソン・カヌー・クラブのプール練習日のことだった。 この時はパドリングのレッスンではなく、いきなりロールのレッスンを受講した。 後で知ったのだが、ネルソン・カヌー・クラブのプール・レッスンといえば、ロール・レッスンの事だったのだ。 実をいえば私自身はロールを習うつもりで行ったわけではなく、とりあえず「カヤックを習いたい」とだけ思って出かけただけであり、パドル・ストロークのさわりでも教えてもらえるのだろうと思っていた。 それが漕ぎ方をすっ飛ばしていきなりロール・レッスンだったから相当に驚いてしまった。 ともあれ1時間後、意外な事にも私はロールをなんとかマスターしていた。 次の火曜日もプールに練習に行ったが生憎その日はロール・インストラクターの数が足りなかった。 やむを得ず1人で先週覚えたばかりのロールをブラッシュ・アップ。 1時間後にはほぼ100%成功するようになっていた。 さらに次の火曜日、この日もインストラクターが足りなかったため、再び自習。 先週右のロールはほぼ100%成功するようになっていたので、この日は逆の左のロールに挑戦した。 補助なしだったためかなり苦労したものの、結局1時間後には7割程度の成功率で、一応左のロールもマスターできていた。 ちなみにこの3回のプール練習の間、1度もパドリングのレッスンを受けた事はなかったため、フォワード・ストロークのやり方さえ知らなかった。 きちんとフォワード・ストロークを習ったのは、実はエイベル・タズマン・カヤックスに就職してからの事だ。 つまり私はパドリング・ストローク以前にまずロールをマスターしてしまっていたのだ。 これが普通だと思っていた。 そして、30歳を過ぎた人間がものの1時間でマスターできるテクニックだから、まさかそれが日本では『高等テクニック』とされているだなんて思ってもみなかったのだ。 私にしてみればロールなんて自転車の補助輪をはずすようなものでしかなかったのである。 ロールを覚えないまま実際に川や海に出て行くなんて恐ろしくて考えられなかった。 ちなみに自他ともに認める運動音痴の妻Ryokoも1時間でロールは一応出来るようになったし、ロール・インストラクターとしての訓練を受けていない私の我流のインストラクションでも1時間でロールをマスターした人がいる。 もちろん全員が全員1時間でマスターできるテクニックだとは言わないが、やっぱりそんなに大変なシロモノではない。 ほとんどの人が1日で一応のコツを掴める程度のものだと思うのだ。 はっきり言ってしまえばちゃんとしたフォワード・ストロークより全然簡単だ。 1日でフォワード・ストロークのコツを覚えてしまう方がいらっしゃったら、武藤敬司かパット・メセニー並みの天才だと思う。 さて、日本でなぜロールが覚え難いのかという話は日本のパドラー諸氏に色々話を伺った。 皆さん一様に口にされたのが 「日本ではニュージーランドのようにプールで練習する機会がほとんどない」 というものだった。 でもこの理由には、なんだか今1つ納得出来ないのである。 別に人工のプールでなくても川のプールでも静かな海でもロールの練習は出来るんだから。 「教わる機会がなかなかない」 なんて答えも聞かれたが、これは論外だろう。 機会なんか自分で作るもんだ。 ニュージーランドだって、自分で習いに行かなきゃ誰もわざわざ教えてくれはしない。 結局『ロールは高等テクニックだ』という思い込みが問題なんじゃないかという気がする。
ロールは高等テクニックだ なんていう図式があるんじゃないだろうか? それが結局ロール・インストラクションの出来る人間の不足にも繋がるのかもしれない。 ま、「ロールは難しい」とされている事自体はまぁいいとして置いておこう。 それにも増してどうにも解せないのが、初心者にロールを教える代わりに『ロウ・ブレイス』『ハイ・ブレイス』を教えているらしい事の方なのだ。 自分の体験を話せば、私の場合はまずロールをいの一番に覚えてしまったが、ブレイシングの方は本当にエラク苦労したのである。 今現在きちんとブレイシングをマスターしているかと問われれば、はっきり『イエス』という自信はない。 ブレイシングは難しいのだ。 あたり前だ。 わざと自分で艇を傾けて練習する時だったらブレイシングはそう難しくない。 ロールより簡単だと思われるだろう。 でもそれは大きな間違い。 『自分で艇を傾けている』ということは『本当にはバランスを崩しているとはいえない』のだから、練習の時は簡単に出来てあたり前なのだ。 だからいくら練習で上手く行くようになったからといっても、実際にバランスを崩した時にとっさに使えるかと言えば、これは初心者には絶対に不可能。 例えていえば、ケンカになった時カウンターパンチを決めるようなもの、といえば分かりやすいだろうか。 とっさにブレイシングを決められるようになるまでには物凄い量の練習を要する。 しかも、わざとバランスを崩してやる練習ではなく、ホントにバランスを崩すことを何度も何度も経験しなきゃ意味がない。 はっきりいってこれこそ『高等テクニック』である。 翻ってロールの方は、とっさの動作ではない。 一旦沈した後、ゆっくり構え、頭の中でシミュレーションをして、気を静めて、「よし!」ってんで始める余裕がある。 つまり、一応マスターしてしまえばとりあえず初心者にも使える余地がある。 私の話をすれば、ロールは覚えた直後から自信を持って使いこなしていた。 ロールに失敗して泳いだ経験は1回だけだ。 これは初めてシーカヤックでロールに挑戦して、すっぽ抜けてしまったというものである。 ところがブレイシングはどうかと問われれば、前述した通りいまだにあまり自信がない。 むしろバランスを崩した時はブレイシングは無理にやろうとせず、息を吸ってロールに備えようとしている。 同僚連中もだいたい同じ意見だ。 ま、我々が沈する時ってのはまず間違いなくサーフィン中なので、下手にブレイシングすると肩にダメージを負う危険がある、という理由もあるのだが。 1つエピソードをご紹介してみよう。 今シーズンの頭にガイド全員がレスキュー訓練をしたときの事。 訓練中に出発地から数百m南に流されていた我々は、訓練終了後出発地点に戻るために北に向かって漕いでいた。 私はタンデム艇のスターン席に座っており、バウ席にはツワモノ揃いの同僚の中でもトップクラスの腕前を持つ超凄腕パドラーが座った。 彼のサーフィンなんて、そりゃぁもう見事なもの。 こっちなんて180度ターンしてバックサーフィンが出来れば大喜び、そのあともう1回180度ターンでフォワードに戻れたら狂気乱舞して死ぬかも、っていうレベルなのに、彼と来たらその横を並走しながらでこっちに向かって「そうじゃねぇよ、こうだよ!」なんてインストラクションしつつ、自分自身も720度、1080度とクルクル回り続けてるようなレベル・・・(もちろんロデオ艇を使っての話だけど)。 ちょっと脱線したが、とにかくそういう超凄腕パドラーと同じ艇に乗って漕いでいたと思っていただきたい。 その時の状況は「サーフゾーンの中を、50cm前後のサーフを右舷に受けながら、ビーチと並行に漕いでいる」という形だった。 つまり左手がビーチ、右手が沖だ。 真横からのサーフとはいえ、この程度の大きさなら我々にとっては別段緊張を強いられるほどのものではない。 特にタンデム艇の場合、どちら1人がロウ・ブレイスを使ってブローチングすれば間に合う程度のものだ。 というわけで一応毎回右から来るサーフに対してブローチングをしていたものの、実は2人とも油断しきっていた。 ここまで書けばもうその先はお分かりだろう。 『油断大沈』という諺があるように(嘘)、我々も少々大き目のサーフが襲ってきた時、右へのリーンが不足していたために見事に左になぎ倒された。 この時、我々2人が左側にブレイシングを入れる事が出来たかと言うと、実は『ノー』。 2人とも『ノウ・ブレイス』で無抵抗のまま沈したのであった。 この時はブローチングのために、当然の事ながら2人とも右側へのロウ・ブレイスの姿勢をとっていたのだ。 それにも関わらず、左へロウ・ブレイスを入れることは出来なかった。 ま、こういう場合は実際には怪我を防ぐために左へのロウ・ブレイスはやらない方がいいのは確かだ。 でも私に関していえば怪我をしないためにわざとブレイシングをしなかったわけではない。 ただ単に何も出来なかったのだ。 おそらくバウ席の同僚も同じだと思う。 やっぱりとっさのブレイシングなんて、そうそう出来るもんじゃないのだ。 これが出来るようになったらもう超一流だ。
ちなみにこの時はロールで起きた。
まさか沈するとは2人とも思っていなかったので、「どっち側のロールをするか?」「どういう合図で始めるか?」などの打ち合わせは全然やっていなかった。
だから、お互いまったくてんで勝手にロールをしたのだが、偶然にもタイミングがばっちりあってて成功してしまったようだ。 というわけで、やっぱり私はブレイシングは高等テクニックだと思っている。 その上、何度か前述した通り、ブレイシングには肩にダメージを負う危険性がつきまとうので、あまり多用すべきではないとさえ思っているのだ。 バランスを崩したらとりあえず素直に沈。 そして落ちついてロール。 これでいいと思っている。 だから『初歩的テクニック』であるロールは、なるべく早い段階でキチンとマスターすべきだ。 私見を申し上げれば、これから本気でカヤッキングを始めようとする方は、まずパドリングやパドル・フロート・リエントリーなんかを覚える前に、さっさとロールを覚えてしまう事をお薦めする。 パドル・フロート・リエントリーに関しては前章で述べた通り、いざという時の実効性が問題であるし、そもそもロールに失敗した時のバックアップ手段として考えられたものだから、ロールより先にこっちを覚えるのははっきりいって邪道だと思う。 そしてなによりも大事なことは、同じ事を習うにしてもロールをマスターしているのとしていないのとでは沈に対する恐怖感が全く違うため、技術の習得度にも歴然と差が出て来る、という事なのだ。 例えば「スィープ・ストロークの際は、なるべく艇をリーンさせろ」っていわれても、ロールの出来ない方はリーンさせられないのではないだろうか? ロールに自信を持ってさえいれば、初心者でも相当艇を傾けられるものなのだ。 もちろん、もう相当な回数パドリングしているにもかかわらずまだロールをマスターしていないという方は、もう是が非でもなるべく早くマスターしてしまうべきだ。 同時に日本のカヤッキング・スクールなどのインストラクター諸氏にも、初心者に対する講習項目のトップの項目にロールを取り入れることを強くお薦めしたいと思う。 きちんとしたインストラクターならば、勘のいい人に1時間以内でマスターさせるのは難しい話ではないはずだ。 『初心者=ロールが出来ない人』ではない。 ロールが出来ても初心者は初心者なのである。 1年半前の私がそうだったし、現在の妻Ryokoなんかもまさにその典型だ。 ロールってのは、その程度のテクニックなのである。 だから、「難しい」という思い込みを頭から追い出し、インストラクターのいう事を素直に守れば、カヤックなんて驚くほど簡単に起き上がってくれるものなのだ。 『案ずるより起きるが易し』だ。 ちなみにマニュアルにあまり書かれていないようなコツを少々書いておけば、
とにかくロールの動きっていうのは、今まで地上で体験したいかなるスポーツとも異なる非常に異様なシロモノだ。 頭で考えれば考えるほどわけ分からなくなる『不思議な動き』なので、『何も考えず、バカになってインストラクターの指示に従う事』。 これが一番だ。 |
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