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その6 続・ロールの話







 前章その5 ロールの話の最後でロールのコツを3つ書いた。

  • とにかく頭を起こさないこと

  • パドルを速く動かさないこと

  • 胸を開かないこと

の3つだが、前の2つはまだしも最後の『胸を開かない』ってのは読んでもちょっとピンと来なかった方が多かったのではないかと思う。 実は、先日日本(実家)から救援物資が届いたのだが、その中に『カヌーライフ 26号(2000年春号)』(山海堂)が入っていた。 巻頭特集は『ダウンリバー a GO GO』と題されたフリースタイル・ダウンリバーの記事だった。 丁度その中にロールの解説ページがあり、この『胸を開かない』ってのを説明するのにちょうどいい写真が載っていたので、これを題材に上記のコツを補足しようと、本章を書く事にした。 手元に同誌をお持ちのシーカヤッカー諸氏は是非ともご参照頂きたい。

 まず最初にお断りしておかなくてはなるまい。 本章ではこの記事の写真を『悪い例』として取り上げている部分があるが、これはなにも駆け出しガイドの分際でファンテックのインストラクター氏に楯突こうなどという畏れ多い事を考えてのことではない。 これはロデオ艇とシーカヤックという全く異なる構造を持つ艇に起因している。 両者は大きさもさる事ながらそれ以上にハル形状がまるっきり異なるため、同じテクニックにも全く違うノウハウが要求される場合が少なくないのである。 つまり、ロデオで正しい姿勢が必ずしもシーカヤックでも正しい姿勢であるとは限らない、というわけである。 だから今回、『木村氏がシーカヤックに乗っていると想定』して、『悪いシーカヤッキング例』になって頂いたというわけである。 要は、この章は『初心者シーカヤッカー』諸氏がこの記事を参考にされようとした場合のために、 「シーカヤッカーはロデオ・テクニックを全部そのまま鵜呑みにしちゃダメですよ」 と補足、注意書きをしたためたものだとご理解頂きたい。

 というわけで、ロデオ名人なのに勝手に『悪いシーカヤッカー』にしちゃって、誠に申しわけないですm(__)m>ファンテックの木村さん

 さて、本題に入ろう。 まず最初にシーカヤックとロデオ艇、それぞれでロールをする際の傾向を簡単に述べておこう。 とはいっても、実は簡単にいうのは少々難しい。 シーカヤックと一口にいっても艇によって起きやすさは違うし、それはロデオ艇もしかりだろう。 ま、そういうのをあえて無視して無理矢理一般的な話をしてみることにする。 シーカヤック、ロデオ艇、どちらでも問題なく確実にロール出来る人が同じ条件で両者の起きやすさを比べた場合、おそらく彼にとってロールしやすいのはシーカヤックの方だろう。 幅が広く、フラットボトム&ハードチャインというハル形状を持つロデオ艇の方がおそらく起きにくいはずだ。 つまり『物理的』『理論的』には、シーカヤックの方がロールしやすいと思う。

 じゃあ『実際的』な話をした場合、ロデオ・カヤッカーがシーカヤックでロールすると簡単に成功し、シーカヤッカーがロデオ艇でロールすると失敗するか?というと、必ずしもそうともいえないから話がややこしい。 シーカヤックはコクピット内のフィッティングが緩いため、タイトなコクピットのリバー・カヤックでしかロールをやった事のない人の場合、シーカヤックでロールを試みるとニー・ブレイス不十分ですっぽ抜ける事が多い。 前章で述べた通り、私も初めてシーカヤックでロールを試みた時、ご多分にもれずすっぽ抜けて泳いでしまった。 すっぽ抜けなくてもニー・ブレイス不足でせっかくのヒップ・フリックが艇にうまく伝わらず、その結果ロールに失敗してしまうパターンが多いのである。 さらに実際的な話をすればシーカヤックはリバー・カヤックと違って空荷でパドリングする事はほとんどないという事情もある。 荷物を積めば重くなり、当然重くなれば重くなるほど、艇は起きにくくなる。

 だから、『実際的』な話をした場合、ロデオ・カヤッカーが起こしやすいはずのシーカヤックでのロールに失敗し、逆に荷物満載のシーカヤックでロールしなれてるシーカヤッカーは起こしにくいはずのロデオ艇を何の問題もなく起こしてしまう、という事が起こる。 というわけで、『物理的』に起きやすいのはシーカヤックだろうが、『実際的』には一概にはいえないのである。 ま、とにかく私にハッキリ言えるのは、シーカヤックでロールをする場合は、リバー・カヤックよりもニー・ブレイスに神経を遣わなくてはいけないということと、荷物を満載している時は相当なパワーを要するという事の2点だ。

 さて、いよいよ核心の『胸を開くな』の話だ。 同誌をお持ちの方は32ページをご覧頂きたい。 ロールの解説ページだ。 ここでは『ファンテック・ロール』なるスィープ・ロール+バック・トゥ・フロント・ロールの連続技を紹介してあるが、ご注目頂きたいのは7番と8番の写真。 上記のコツの3番目で『胸を開かないこと』と書いた。 この7、8番の写真がまさに『胸を開いている』悪い例なのである。 写真で見れば一目瞭然、ラジオ体操じゃないが『胸を大きく開いて背伸びの運動』よろしく大きく胸を張っているのがお分かりいただけるだろう。 前述の通り私はロデオに関しては門外漢なので、これがロデオ・テクニックとして正しいか間違っているかの判断基準は持たないが、もしこれがシーカヤックのテクニック解説記事だったら、
「そんな姿勢だからスィープ・ロールに失敗して、バック・トゥ・フロント・ロールに切り替えなきゃ起きられないような羽目になるんだよ!」
と突っ込む所である。

 なぜシーカヤックの場合胸を開くと起きないのか、ご説明しよう。 先ほど「シーカヤックはコクピット内のフィッティングが緩いため、ニー・ブレイスに神経を遣わなくてはいけない。ニー・ブレイスが不十分だと肝心のヒップ・フリックが艇に伝わらなくなるからだ。」と書いた。 いくら正しくヒップ・フリックをやっても、それが艇に伝わらなければ起きるはずがない道理である。 つまり、結局肝心要なのは『ニー・ブレイス』なのである。 胸を開いて反りかえってしまうと、この肝心のニー・ブレイスが効かなくなってしまうのである。 これは床に座って実際にシミュレーションしてみればすぐにおわかりになると思う。 胸を張って後に反った姿勢と、猫背気味の前傾姿勢、どちらが膝の自由度が高くて膝に力を入れやすいかといえば、これは圧倒的に猫背姿勢の方だ。 それだけではなく、胸を開いた後傾姿勢の場合は、いわゆる『腰が引けた』状態になって上半身下半身の動きがバラバラになってしまうという問題もある。 『腰が据わる』のは、猫背前傾姿勢のほうだ。 というわけでフィッティングの緩いシーカヤックの場合は、『胸を開く』→『ニー・ブレイスが効かない』→『ヒップ・フリックが伝わらない』という3段論法(?)が成立し、ロールの失敗率がグンと上がってしまうのだ。

 一方、ロデオ艇を始めとするリバー・カヤックの場合、最初からコクピットはタイトだし、実際に川でロールをしようとされるような方だったら自分の体に合わせてさらなるフィッティングも施されているだろう。 こういう艇の場合、特にニー・ブレイスに気を遣わなくても、ヒップ・フリックは確実に艇に伝わる。 そのためのタイト・フィットなんだから当然だ。 だから頭を起こさないことに留意してさえいれば、少々胸が開いてしまっても特に問題ないのだろう。

 さて、話を元に戻して、次にパドルを前に動かし始めた9〜11番の写真の方を見てみよう。 これらの写真では猫背気味の姿勢になっている。 これが正しい姿勢だ。 つまりシーカヤックでロールをやろうとした場合は、7、8番の位置で9〜11番のような猫背になっていないと起きにくいというわけだ。 これが、『胸を開かないこと』の実例である。 つまり、逆にいえばシーカヤックといえどもリバー・カヤック並みにガチガチのタイト・フィットに調整してあるならば、あまりこの点にこだわらなくてもいいという事にもなるわけだ。 でも、胸を開かないフォームを身につけておくに越した事はないと思う。

 ついでにもう1つ細かい事を言えば、7、8番の姿勢の段階では左手の拳骨は、口のすぐ側にあるべきだと思う。 私の場合、スィープ・ロールは左手が実際に左頬に触れる形でフィニッシュしている。 (蛇足だが、C to C ロールの場合は左手首が額に触れる感じでフィニッシュする。) この写真では左手は胸の前30cm位の位置にある。 これが胸を開いてしまう原因の1つでもある。 左手を口元に持って来れば胸を開く事を防止する事も出来る。 ま、猫背の方はともかく、手の位置なんてのはいろんな『流儀』があってしかりだから、かならずしも口元がベストだと自信を持って言い切れるわけではないが・・・。

 ちなみにこのファンテック・ロールという名で紹介してある『スィープ・ロール+バック・トゥ・フロント・ロール』ってのは、要は前述した通りスィープ・ロールからバック・トゥ・フロント・ロール(またはスカリング・ブレイス)への連続技だ。 フィニッシュの段階で前傾姿勢でパドルが前にあるという意味で、確かにここに書いてあるとおり、『実戦的ロール』だといえると思う。 かといって、これをそのまま真似するのは、少なくともシーカヤックに関してはお薦め出来ない。 この写真のように11番の段階にいたってやっと起きあがるつもりでやるのは、やはりよくないと思うのだ。 あくまでも8番の段階で完全に起きあがってロール自体は完了しており、そこから先は素早くパドルを切り返して前に持って来る動きだけ、というつもりでやるべきだろう。 つまり9〜11番の手順部分は『ロール完了後』の動作であるべきで、万が一8番の段階でスィープ・ロールに失敗していた場合はバックアップのロール(スカリング・ブレイス)としても機能し得る、という程度のつもりでいた方がいいと思う。 最初から9〜11番の手順を含めてロールを完了するつもりで練習すべきではない。 だからそういう意味で、この一連の写真は『失敗を9〜11番でフォローした例』として捉えておいた方がいいと思う。 ま、もちろんロデオの世界の事はよくわからないのだが。

 ちなみに、実戦的なフィニッシュ姿勢のロールという事でいえば、最初から『バック・トゥ・フロント・ロール』だけをやるという手もある。 特にサーフィン中は後傾姿勢で沈する事が多いし、起きたところにサーフが襲ってくる事もあるわけだから、特に有効だと思う。 というわけで私も今コイツを練習中だ。 こいつはなかなか難しく、随分長い間練習しているのだが、いまだに実戦に使えるほどのレベルには達していない・・・。

 ロールについては以上でお終い。 ついでだから、他のテクニックについてもちょっと書いておこう。

 まず31ページのロウ・ブレイス。 この写真を見ると、頭が起きっぱなしである。 シーカヤッカーとして見れば、これもやはり『悪い例』。 下段のハイ・ブレイスでは最後まで頭を起こさないようにしているが、ロウ・ブレイスの際も同じ。 ロウ・ブレイスの3番の写真の段階で、ハイ・ブレイスの4番の写真のように頭を水に突っ込むつもりで右に倒し、完全に復元するまで(6番の写真の姿勢になるまで)頭は起こしてはいけない。 もちろん、これもロデオ艇の場合はこれでもいいのだろうと思うが。 なんせ、傾いた際の安定性や復元性がシーカヤックとは全く異なるのだから、この辺のノウハウはロール以上に違ってくるのだろう。

 次はちょっと前に戻って26ページのスィープ・ストローク。 ここではフラットボトムのロデオ艇向けに「艇をリーンさせずフラットにする」と解説してある。 もちろんラウンドボトム(またはVシェイプ)を持つシーカヤックの場合は全く逆。 パドルを入れる側にしっかり傾ければ傾けるほど、艇は曲がりやすくなる。 これはリバース・スウィープ・ストロークの場合も同じ。 フラットな姿勢のまま、5mもあるシーカヤックを回すのはエラク大変だ。

 28ページのドロー・ストローク、スカリング・ドローも同じ。 フラットボトムのロデオ艇はフラットのままやるんだそうだが、シーカヤックの場合はもちろんリーンさせる。 スィープ・ストロークの時ほど大袈裟には傾けないが、少々リーンをかけた方が進みやすいのは確かだ。
 さて、問題は『どちらにリーンさせるか?』である。 実はここで前章のテーマ、『ニュージーランドと日本の違い』が再浮上するのである。
 日本ではパドルを入れる側、つまり進む側にリーンさせるんだそうだ。 つまり日本の場合は、スカリング・ドローとスカリング・ブレイスはただ単に艇とパドルの傾き加減が違うだけで基本的に同じテクニックって事になるのだろう。
 ところがここニュージーランドでは全く逆、パドルを入れる側の膝を持ち上げて進行方向と逆に艇を傾けるのである。 つまりスカリング・ドローとスカリング・ブレイスは、全く別のテクニックになってしまう。 もちろんニュージーランド方式の場合も普通のドロー・ストロークの際は、パドルを入れる瞬間はなるべく遠くにパドルを入れるため、艇は進行方向側に傾く。 しかしパドルを引き寄せ始めたら艇は進行方向と逆側に傾けるのである。 スカリング・ドローの場合は最初から進行方向と逆側に傾けておく。

 実際の効果の話をすれば、日本方式の方が若干進みやすい、つまりスピードが出るような気がしている。 しかしパドルコントロールが上手く出来ない初心者にとってバランスを崩しにくいのは、明らかにニュージーランド方式だろう。
「スカリング・ドローの練習中にパドルの角度を上手く付けられず、水の中でパドルが『空振り』してバランスを崩し、そのまま沈した」
っていうのは何度か耳にした話だが、これはパドル側にリーンする日本方式では避けられないことだと思う。 ニュージーランド方式の場合、パドルコントロールに失敗して『空振り』しても、重心が逆にかかっているため、沈する事はまずない。 というわけで、これからスカリング・ドローを覚えようという方にはニュージーランド方式をお薦めするが、一旦マスターしてしまったなら日本方式、ニュージーランド方式どちらでも好みでいいのではないかと思う。
 ちなみに私の場合は、お客さんに教える場合(興味を持たれるお客さんに時折教えることがある)は失敗しても沈しないニュージーランド方式をインストラクションし、自分がやる際には普段はニュージーランド方式、スピードを出したいときは日本方式、という風に使い分けしている。 蛇足ながら付け加えておくと、日本式にしろニュージーランド式にしろ、いきなりスカリング・ドローをやるのではなく、1発目はまず普通のドロー・ストロークをやり、引き付けたパドルでスカリングに移行するようにしている。 この方がスピードが乗りやすい。

 しかし日本の雑誌や本はなんで『スカーリング』って伸ばして書くんだろう? scullingだから『スカリング』でいいと思うんだがなぁ。 その3 ガイドの1日でlaunchingを『ランチング』と表記してある事に違和感を覚える事を書いたが、この『スカーリング』にもエラク違和感を覚えるのである。 ま、どうでもいいことだが。 プロレスの『バック・ブリーカー』なんてのよりはまだマシかもしれないし(笑)






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